熱すぎるコーヒー

4月13日の木曜日、時刻は14時過ぎ。そのとき私は、とある場所にいました。

引き戸を開けると、こぢんまりした事務所。カウンターの上には、折り紙でできたあやめの花が小さな花瓶に飾られている。カウンターの横には、シンプルな白の丸テーブルがふたつ。分厚いガラスの灰皿がもうけてあり、テーブルはタバコのすすで黄ばんでいた。その先にはテレビ台があり、そこには小さなこけしや、ミニカーや、誰かの時計とかが、何のつながりもなく乱雑に飾られている。テレビに目をやると、ちょうど「徹子の部屋」が始まったところ。他にも、日焼けして色褪せてしまった何かのポスター、古ぼけた雑誌、振り子時計。ここには昭和の景色がそのまま残っている。これはまるで、「遠く離れた祖母の家」といった具合だ。・・・

 

・・・ここは、うちの会社がいつもお世話になっている、地元の自動車整備屋。気候もだいぶ春めいてきたので、社用車のスタッドレスタイヤを交換してもらおうと訪れたのでした。

 

午前中は事務仕事をして、早めにお昼ご飯を摂ったあと、新入社員とその整備屋に向かいました。会社名を言うと、事務員のおばさんは全てを理解し、『ああ、いつもお世話になっています』と言って、私たち2人を丸テーブルに案内してくれました。新入社員は、私と2人きりになったのを、とても気まずそうにしていました。私はスマートフォンで「明日の天気」とか、「今日のトップニュース」とかをぼーっと眺めていましたが、真面目な彼は今までにとったメモをパラパラと確認していました。かろうじて、ぽつりぽつりと、暇だね、そうですね、といった会話がありました。彼は、何度も身をよじったり、眼鏡をいじったりしていました。

 

『はい、どうぞ』と、事務員のおばさんが新聞紙を2つ、テーブルに置きました。タイヤ交換が終わるまでの暇つぶしに、持ってきてくれたのでした。そして、純喫茶に出てきそうな、白と青の模様がどこか懐かしいカップに、熱々のコーヒーを淹れてくれました。例年の平均気温を超えたよく晴れた日には、熱すぎるコーヒーでした。テーブルから窓を見ると、外の小さな花壇にはノースポールがびっしりと咲いていました。

 

新入社員は、私に、仕事についてのいろんな質問をしてきました。私はそれにひとつひとつ、誠実に答えられるよう努力しました。そしてときどき、熱いコーヒーをブラックのままで啜りました。背の高い社長さんが事務所に入ってきたので、『いつもありがとうございます』と、挨拶をしました。はいよ、と、社長は手を挙げました。

 

タイヤ交換は、ちょうど私たちがコーヒーを飲み終わるときに終わりました。その頃には、新入社員の緊張もわずかにながら解けたようで、帰りの車内では、私との共通の趣味についての話が弾みました。しばらくドライブをして、事業所に戻りました。

 

この整備屋に来ると、仕事を抜け出して、昭和の雰囲気を感じながら、かつ、コーヒーを飲みながらゆっくりできるので、ある意味「ラッキー」なんです。ただそれが書きたかった、今回の日記でした。次行けるのはいつかなあ。