難しい顔

最近、調子の悪い日々が続いていました。職場で預かっている子どもたちと過ごしている時でも、憂鬱な気持ちがもやもやと心を覆って晴れないことが多々ありましたが、それでも過去のようにお酒には頼らず、処方された規定量の精神薬のみでやり過ごすことができています。

 

そうやって、なんとか10月11日の水曜日までたどり着くことができました。この日は仕事がお休みでしたが、インフルエンザの予防接種を受けなければなりませんでした。予約は午後でしたので、それまでは近くのショッピングモールで暇を潰すことにしました。

 

新鮮な野菜を、たくさん買いました。ねぎ、なす、だいこん、トマト、れんこん。私は野菜を嫌わない子どもだったので、煮たり炒めたりはもちろん、生のものもよく食べました。植物が好きです。なんにも話さないけれど、だからこそ凛としていて、それでいて個性がある。野菜を食べると、このつまらない日々の繰り返しが、その苦味やかすかな甘みに包まれて、一瞬、なんとなく生活がとても良いもののように思える。農家から直接仕入れられた、たくさんの野菜たちを家に持ち帰る幸せ。野菜が大好きです。

 

これから私の胃袋に収められる運命の野菜たちを抱えながら歩いていると、コスメ売場に着きました。きれいな女性が、『パーソナルカラー診断、しませんか』と私を誘っています。面白そうだったので、お願いすることにしました。

 

女性は私の腕の血管や、瞳の色、肌の色をじっと見つめたあとに、『う〜ん…』と小さく唸りました。そのあと、濃い赤や山吹色、えんじ色などの布をたくさん胸に当てられました。女性はしばらく『う〜ん』と悩んだあとに、眉間にしわを寄せながら、『お客さん、難しいですね…』と言いました。なるほど、私の顔は難しい顔なのか、と、鏡を見ながら思いました。

 

女性によると、私の顔はいろんな要素があるのだそうです。総合的に判断すると、結果としては「ブルーベースの冬」なのだそうですが、「夏」の雰囲気もあるらしく、私はその曖昧さにパーソナルカラーなるものの信ぴょう性を疑いかけていたところでした。でも楽しい経験だったのでそれだけで価値があると思うことにして、試しに私に合うメイクを施してもらうことにしました。目が丸いので、濃いめのブラウンのシャドウを、横長に塗って横長に見せるのがポイントなのだそう。適当なメイクをしている普段よりも、うんとキリッと大人っぽい自分を見て、メイクの力をまじまじと思い知らされました。女性は私に施したメイクが気に入ったようで、私が帰るまでなんども『雰囲気が変わりましたね〜』と言っていました。

 

そういうわけで、ワクチン接種にはバッチリメイクで向かうことになりました。周りには同じくワクチン接種を受けに来た子ども連ればかりで、ひとり変に着飾った私だけがどうも浮いていました。私は呼ばれるまで隅の方で立っていました。そばに座っている女性に抱かれた赤ちゃんと目が合ってしまったので、しばらく見つめ合っていたら、赤ちゃんは怪訝な、難しい顔をしていました。同じ「難しい顔」でも、赤ちゃんのそれはどんなに難しくても愛おしいものなのだなあ、と思いました。