世界で一番美しい場所

私は空想好きな子どもでした。お友だちを作るのも、保育園のルールに従って輪の中で普通に過ごすのも、全部できない子どもだったので、ひとりで空想の世界で遊ぶのが大好きでした。

 

本や図鑑、映像をよく好みました。特に映像は面白さが明快なので、ビデオテープが擦り切れるほど、お気に入りの映画やアニメを繰り返し観たものでした。そして、それらをヒントにして、無限の空想の世界に旅に出るのです。

 

なかでもお気に入りは「アラジンと魔法のランプ」のお話でした。ディズニーのアニメ映画を観て、幼いながらに衝撃を受けたのをよく覚えています。きらびやかで、豪華絢爛なアラビアの異国情緒あふれるあの唯一無二の世界観は、私の心を掴んで離しませんでした。ビデオテープをセットし、あの風景が映し出されると、ああ、私はとてつもなく遠い、そしてとても危険な、でもこの世で一番美しい場所に来てしまった・・・そんな、うっとりとした気分になったものでした。

 

今でも「アラジン」は私の心を離しません。数年前、ディズニーによって実写映画化されたときは、映画館で涙を流しながら観ました。魔法のじゅうたんが空を舞う光景が、大きなスクリーンにまるで現実かのように映し出されたとき、長年の夢が叶ったかのような、なんともいえない気持ちになりました。私の座っていた座席の隣には幼いころの私がいて、2人でそれを眺めているような、そんな気がしました。

 

すこぶる良い評判を聞くので、先日、劇団四季によるミュージカル版「アラジン」を観劇してきました。とても素晴らしいものでした。注ぎすぎた水がコップから溢れ出るように、心を大きな感動が埋め尽くして、本当に幸せな気持ちになりました。カンパニーの全ての人たちに、夢を見せてくれてありがとう、と心から言いたくなりました。砂漠を怪しく照らす大きな月に、商人の行き交うマーケット。美しい宮殿、魔人のランプ、そして空飛ぶじゅうたん。「アラジン」は、私の全ての空想の原点と言っても過言ではないのです。

 

得も言われぬ幸福な気分で帰宅した後、ふとテレビを付けました。普段は全くテレビを観ないのに、この日はなぜかテレビを観ようと思いました。すると、その瞬間に、何かのバラエティ番組の中で、お笑い芸人さんが劇団四季をおもしろおかしく真似ている様子が映し出されました。私は、突然目の前が真っ白になりました。

 

みなさんは、「自分が劇団四季を観劇したこと」と「テレビでお笑い芸人が劇団四季を真似ていたこと」は全く関係のないことで、ただの偶然の産物である、と感じることができると思います。私にはこれができません。すぐにいろいろな事柄を、自分に関連づけて考えてしまいます。このときも、「劇団四季を観に行ったということをまた何者かに監視されていて、それをほのめかされたのではないだろうか」と考えてしまい、本気で恐怖しました。そして、夢を見ることすら許されないのか、と、絶望もしました。

 

それからずっと気分が沈んでいます。なぜなら、「アラジン」は私にとって本当に特別な夢の世界だったからです。馬鹿げています。でも、今の私には正直、現実と妄想の区別がうまくつきません。

 

私は生まれ変わったら、あの世界で一番美しい場所に行くつもりです。貧乏な心優しい青年になってもいいし、街を行く怪しい商人でもかまいません。もちろん、砂漠の国のプリンセスでも面白いでしょう。来世はきっと、新しい世界で自由に暮らせると、そう信じてします。